このサイト立ち上げのもととなった外国人児童生徒等に対する日本語教師初任者研修カリキュラム開発事業は、東北地方、特に福島県のような外国人散在地域を対象とし、児童生徒等を対象に日本語教育を行う人材が地域で孤立することなく成長し学び続けられるような研修カリキュラム開発を目指しました。
 日本語教師研修を計画の方は、今回の研修の内容と方法を参考にして、地域の状況によって必要なテーマを選び、1回から数回の研修を企画することもできます。
 この事業について、もう少し詳しく説明します。


地域の特性

 一口に外国人散在地域と言っても、その状況は地域によって違います。
人口が集中し、日本語学校や地域国際化協会による子どもへのサポートシステムがあり、日本語ボランティアや大学生ボランティアといった支援者の協力が受けやすい地域もあれば、外国人の方の流入が頭打ちで、外国人の子どもが編入してくることがとても珍しく、支援者もおらず、距離的に他地域からの応援を受けることも難しい地域もあります。
 さまざまな外国人散在地域の中で福島県の地域特性は以下のとおりです。

  • 県土が広く、研修会実施会場までの交通の便が悪く、気軽に研修会に参加できる地理的な条件が整っていない。冬場は移動が困難である。
  • 福島、郡山、いわき、会津といった中核的な市でそれぞれ、独自の研修会が行われていて、他地域の人がそれに参加することはあまりない。
  • 研修会を実施すると、参加する受講者の資格や背景がバラバラで、対象者を受講者の属性(有資格者、教員、ボランティア、学校での支援者、地域日本語教室のボランティアなど)で絞った研修会ができない。その背景には、研修の機会が少ない、一人の人が様々な場面で様々な立場で日本語教育を行っているといった事情がある。
  • 日本語教育においての分業がされにくく、専門家が育ちにくい。
  • 子どもを対象とした日本語教室が県内に7つあるが、その教室に通える子どもはごく限られている。
  • 福島県教育委員会の調査によると、平成30年度福島県内の小中高等学校(公立)に通う児童生徒で日本語指導が必要な生徒は99人。(福島県HP「福島県の国際化の現状」より)
  • 学校での子どもの支援は、福島県全体で5人の日本語加配教員が配置され、市町村ごとに日本語が分からない子どもの支援をする支援員や指導員を雇っているケースもあるが、ほとんどが子どもの日本語指導の知識やノウハウを持たずに孤立した状態で、日本語指導を行っている。
  • (公財)福島県国際交流協会では、主に市町村教育委員会からの依頼を受けて年間20件程度、日本語指導者の学校への派遣をコーディネイトしている。((公財)福島県国際交流協会HPより)
  • 日本語ができない子どもへの支援は、市町村教育委員会によって対応や支援の内容がバラバラである。
  • 学校で支援している日本語支援者の多くは、日本語教師の資格を持たない。
研修の対象者

 今回の研修は、文化庁委託「2019年度日本語教育人材研修カリキュラム開発事業の児童生徒等に対する日本語教師【初任】研修」事業として実施しました。日本語教師【初任】とは、日本語教師養成段階を修了しそれぞれの活動分野に携わる者で当該活動分野において0~3年程度の日本語教育歴にある者と文化審議会国語分科会『日本語教育人材の養成・研修の在り方について(報告)改訂版』には整理されています。
 しかし、福島県では上記の条件を満たす人の絶対数が少ないこと、中堅以上の日本語指導者の研修の機会が少ないこと、一人の人材が学校での日本語指導者であったり地域日本語教室のボランティアであったりとさまざまな役割を担っていることなどの理由から、幅広い方々を対象としました。
 外国人散在地域で研修の機会が少ない環境では、経験年数に関わらず研修の機会があれば参加したいというニーズもあります。
 今回、児童生徒等への日本語指導の経験がない受講者から10年以上の受講者まで、日本語教師養成段階を修了の有無に関わらずさまざまな受講者が研修に参加しましたが、経験の豊富な受講者がグループディスカッションで自身の経験を語ったり、ディスカッションをリードしたり、受講者の経験年数の違いが研修に良い影響をもたらしました。

遠隔地と結んだ研修

 遠隔地の受講者のためにZoomによる同時受講ができるようにしました。また、一部の講義では講義の録画を一定期間YouTube で配信しました。
 ワークショップ等インタラクティブな活動はその活動に制限が加わることもあり、研修の充実度は対面での研修には及びませんでしたが、Web会議ツールを使った研修会の実施は、研修受講者の移動の負担を軽減し、海外からの受講も可能となりました。今後、改良を加え活用が大いに期待されます。
 録画の配信をすることで、研修後に繰り返し視聴することが可能になり、受講者の学びを深めることができました。

カリキュラム

研修の内容は、文化審議会国語分科会による『日本語教育人材の養成・研修の在り方について(報告)改訂版』に提示されている児童生徒に対する日本語教師【初認】のカリキュラム案の内容を網羅するように組み立てました。それぞれの研修会では、講師による知識・技能の提供、協働で知識や技能を深める活動、振り返りや共有により主体的に学んだことを考えるといった3つ活動をバランスよく取り入れました。また、毎回、講師から課題が出され、学びをさらに深めました。
研修のカリキュラムはこちら

外国人散在地域(東北地方・福島県)における日本語教師初任者(外国人児童生徒等)研修カリキュラム
実施期間:(一社)ふくしま多言語フォーラム
単位時間数:66単位時間(1単位時間は45分)

資質・能力

 『日本語教育人材の養成・研修の在り方について(報告)改訂版』の中の「児童生徒に対する日本語教師【初任】に求められる資質・能力」を参考に、福島県のような外国人散在地域での外国人児童生徒への日本語教師に求められる資質・能力を検討し、この研修で育成したい資質・能力を策定しました。
 この資質・能力は受講者にも意識してもらい、自己評価シートを作り、受講者自身でそれぞれの資質能力が高まったかどうか定期的に振り返ってもらうようにしました。

知識
① 子どもたちが社会と関わりをもち、キャリア(進学・就職、自己実現)を形成する上で、日本語の発達がどのような役割を果たすか理解している。
② 子どもの言語習得や言語運用の特性に関し基礎的な情報をもっている。
③ 子どもの言語学習支援の方法や、教科等の学習と日本語指導を関連付けることの重要性について理解している。

技能
① 子ども一人一人の年齢、ことばと認知面の力、文化的背景に応じて、日本語の学習活動を設計することができる。
② 子どもの生活や学習場面に関連づけて、教材・教具を選んだり作成したりして、指導することができる。
③ 子どもの日本語および母語等の言語のちからを、多面的に把握することができる。
④ 自身の支援を振り返り、改善しようと試みる。

態度
① 子どもたちが、将来どのように社会の一員として生活するのかをイメージして、日本語学習支援の内容や方法を考えて実践しようとする。
② 支援教室での様子に加え、学校・地域・家庭での日本語使用などにも目を向け、ことばの習得状況を捉えようとする。
③ 複数の言語・文化をもつ家族の多様な事情を理解し、子どもに寄り添って支援をしようとする。

実習

 今回の研修では、子どもを対象にした地域日本語教室「ふくしま子どもの日本語ネットワーク」と「こおりやま日本語教室」にご協力をいただき、実習を3回行いました。
 実習の第1回で子どもを対象とした地域日本語教室の見学及び指導案の作成を行いました。
 実習の第2回と第3回で、上記の日本語教室で日本語の支援活動を実際に行いました。
 詳しくは、「講座と実習」のページの「実習」をご覧ください。


なるほど〜。これを踏まえて勉強していけばいいのね!